新美南吉と次男とデパ地下
先日、保育園からの帰り道のことです。
次男(5歳)がやや興奮気味に話しかけてきました。
次男:「今日○○先生がさ、めっちゃくちゃ泣ける本読んでくれたんだよ」
私:「へぇ、なんて本?」
次男:「『ごんぎつね』だよ」
『ごんぎつね』ほどの名作を「めちゃくちゃ泣ける」って……と、そのボキャ貧ぶりに一瞬呆れたのですが、次の瞬間には
私:「ごん、おめぇだったのか、ってね~!せつないよね〜」
と答えてしまっていました。
自分のボキャ貧にもびっくりしましたが、「そうかそうか、『ごんぎつね』の良さがわかるようになったか」と、妙な感慨がこみ上げてきました。5歳ながら「泣ける」と感じるところがあって、それを教えてくれたのが、素直にうれしかったです。
その数日後、久しぶりにデパ地下なるところを「通過」したときのことです。
はなやかな売り場の一角に、妙な人だかり。
おそるおそる近づくと、それはお菓子のワゴンセールでした。
身なりの良いご婦人たちが、眉間にしわを寄せ、四方八方から、肩触るるばかりに(実際触れていた)商品に手を伸ばす姿をみて、ふと、本当にふと、あのことばが頭に浮かびました。
「ほんとうに人間はいいものかしら。ほんとうに人間はいいものかしら」
『手袋を買いに』の、物語を締めくくる、母狐のつぶやきです。
子ども心に、母狐のこのことばは強く印象に残ったものです。
ワゴンセールはいいとして(もちろん自分もそのさなかにいることだってあります)、これまでの人生のなかで、何度リフレインしたかわからない、「ほんとうに人間はいいものかしら」という問い。
そのたびに、「ああ、自分は人間だ、まぎれもなく人間だ」なんて思って、いやけがさしたり、はたまた、笑えてきたりするのでした。
ひょんなことから思いがけず新美南吉の童話と再会、てなお話二題でした。
新美さんの童話、とても好きです。