ウネラのブログ

元新聞記者ウネラの日記

長田弘「詩ふたつ」

誠実な追悼の言葉がほしい。

真心をこめて、死者を悼みたい。

そんなことを考えていて、また長田弘の詩を読み返しています。

 

長田弘「詩ふたつ」の一部を紹介します。

 

「花を持って、会いにゆく」

どこにもいない?

違うと、なくなった人は言う

どこにもいないのではない。

どこにもゆかないのだ。

いつも、ここにいる。

歩くことは、しなくなった。

 

   〈中略〉

 

死ではなく、その人が

じぶんのなかにのこしていった

確かな記憶を、わたしは信じる。

 

ことばって、何だと思う?

けっしてことばにできない思いが、

ここにあると指さすのが、ことばだ。 

  

「人生は森の中の一日」

何もないところに、

木を一本、わたしは植えた。

それが世界のはじまりだった。 

   〈中略〉 

森の木がおおきくなると、

おおきくなったのは、

沈黙だった。

沈黙は、

森を充たす

空気のことばだ。

 

森のなかでは、

すべてがことばだ。

ことばでないものはなかった。 

    

   〈中略〉

 

森には、何一つ、

余分なものがない。

何一つ、むだなものがない。 

 

人生も、おなじだ。

何一つ、余分なものがない。

むだなものがない、

 

   〈中略〉 

わたしたちが死んで、

わたしたちの森の木が

天を突くほど、大きくなったら、

 

大きくなった木の下で会おう。

わたしは新鮮な苺をもってゆく。

きみは悲しみをもたずにきてくれ。

 

そのとき、ふりかえって

人生は森のなかの一日のようだったと

言えたら、わたしはうれしい。

 

詩ふたつ