廊下は歩き直さない【子どもの問いシリーズ】
先日、下の二人の子を保育園に迎えに行く車の中でのことです。
同乗した長男がふいに(いつも本当に唐突)問いかけてきました。
長男:「廊下を走るなっていうのはわかるんだけどさ」
私:「まあ、危ないからね」
長男:「走ったら、走ったところまで戻って『やり直し』ってのはわかんないんだよね」
またすごい球投げてきたな、というのが率直な感想です。
詳しく聞くと、学校には生活指導の担当のような先生がいるらしく、その先生はいつも「廊下を走るな」と注意している。
ある日、その先生の目の前で走っていた子が、走り出したところまで戻らされて、そこから歩き直させられていた(=やり直し)という話でした。
私:「君も『やり直し』たことあるの?」
長男:「おれはまだないんだよ。走ったのを注意されたことはあるけど」
私:「それで、『やり直し』についてはどう思う?」
長男:「だから、それがわかんないんだよ。いろいろ考えてもさ、なんでそんなことするのか、わかんないんだよ」
そうでした、そうでした。そういう質問でした。
私:「なんで先生はそうしたんだと思う?」
長男:「わかんないなあ。走ったからでしょ?でもそれは注意すればいいよね」
私:「『やり直し』させられたら、どう感じると思う?」
長男:「それはすごいいやでしょ。面倒くさいし、遊びに行くのが遅れるじゃん(←休み時間のことのようです)」
こういうやり取りは、どう伝えるか、悩みながら続けているので、大変なエネルギーを要します。
私:「たぶんだけど、いやな思いをさせれば、もう走らなくなるだろうと考えてるんじゃないかな、その先生は」
長男:「えーー?そうなの?」
このときの、長男のきょとんとした顔がやけに印象に残っています。
腑に落ちてないな、と思いました。
私:「うん……なんていうか、それは一番簡単なやりかただよね」
長男:「簡単?わざわざ歩き直させたりするのが?」
私:「うん。君もさっき言ってたようにさ、そこで歩き直させられたりしたら、遊びに行くの遅れたり、いやな思いするじゃん」
長男:「するする」
私:「こんな目にはあいたくないから、次からは走るのやめよう、ってなるじゃん」
長男:「ちょっとそれは……約束はできないんだけど」
……こういう会話のつまづき感が、よくあります。
話がすっと前に進んでいかない、なかなか手ごわい相手です。
私:「まあちょっと聞いてほしいんだけど。『やり直し』させられたあと、また走りそうになってたとするじゃん。そのとき、その先生をみつけたら『やばい』って思って、走るのやめようとしたりしない?」
長男:「ああ、それはわかる。またやらされたらやだもんね。そこは歩くと思うよ」
少し話が進んできました。
私:「だけどそれは、『やり直し』させられるのがいやだから歩くんでしょ」
長男:「そうだよ」
私:「するとそのときは、そもそもなんで走ったらいけないかとかっていうことは、何にも考えてないじゃん」
長男:「まあ、おれはわかってるけどね。ぶつかって危ないとか」
また挟んできた。
私:「うん、それはわかった。戻るよ。いやな思いをさせて、廊下を走るのをやめさせるのはさ、手っ取り早いんだよね。なんで走ったらいけないのか、きちんと話し合って、わかり合うよりも、『いやな思いをしたくないから、そうしないでおこう』って思わせるやり方のほうが、時間も手間もかかんないんだと思うよ」
長男:「なんかおかしいな。それ演技じゃん」
会話に張りがでてきました。
一方で、この話、どこまで風呂敷広げられるのか、広げたもの回収できるのか、自信がなくなってきました。
保育園にも着いてしまったし。
私:「……それは、罰なんだよね」
長男:「うん。バツバツだね」
あ、「×」を思い描いてるな、と感じつつ、いったんこの話しまわないとな、と思いました。
両手が下のチビ二人でふさがったら、この話を継続していくのちょっと難しいな、と思いました。
私:「まあとにかく、歩き直すことはないんじゃないかとは言いたいね、お母さんは」
長男:「そりゃあ、そうだよ」
そうでしたか。
次の瞬間から、延々、バスケの話が続きました。
でもこういう話をしたっていうことは、大事だなと思い、記録した次第です。